ホマレってのはじいちゃんのアダナだった
ホマレという言葉の並びの不思議、あの音のリズムは俺の国にはないものだった
すごく言い辛い
どういういきさつでついたのかはわからないけど、ホマレと呼ばれるじいちゃんはカッコよかった
農園の偉いヒトなのに、死ぬまでヒマドールをやりつづけた
あの重いアガベの丸い根っこをひょいひょいと担いで荷車にのっけてた
俺はそれを見てただけ
たまに手伝うと、あまいジュースをもらえた
アガベは酒になる
俺は10に満たない頃から、できかけの酒をもらった
できたて、じゃなくてできかけ
小さいグラスにちょっとばかしだけ注がれるんだ
半濁だったりどろりとしてたり、さらさらで透明だったりした
ちくちくと熱くて、辛くて、たまに甘かった
じいちゃんは牛の角を首にさげてて、それに注いで飲んでた
どんな味がしても、ううん、とだけしか言わなかった
農園の近くから街に父ちゃんと母ちゃんと引っ越してから、めっきり遊びに行かなくなった
俺がレスラーになる、ということを伝えたのは俺の父ちゃんだった
俺は直接じいちゃんには言わなかったんだ
じいちゃんは文句はいわなかったそうだ
そんなこともあって
俺はますますじいちゃんには顔を合わせづらく
気が付いたらじいちゃんは病院で死んでた
やぁ、ただ なんとなくね
今日は酒が旨いなと思ってさ……
あんたが一緒だからかな
あんたも、肉親がいるなら、生きてるうちに何かしてやったほうがいいよ
いつ隕石に頭を打ち抜かれて死ぬともわからねぇ
いや、肉親だけじゃなく、お前さんも含めてのこと
…ウン、旨いね、うん…… はは
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