原っぱにあった小さい木の下で、ぼんやりと昼寝をしていた。
妻はどこかに遊びに出かけている。
帽子を頭から顔にずらし、逞しい胸板と軽く組んだ両手が乗る腹をゆっくりと上下させて、瞑想とも想像とも夢ともつかないものを見ていた。
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「***、わがままいわないでちょうだい」
「わがままじゃないよ、今日はおれの誕生日だもの、おれはこれがいい!」
「でも、それはもう大人のサイズしかないのよ、ねえ…」
「あぁ、奥さん。申し訳無いが、全くそのとおり。ぼうや、その本に載ってる帽子だけど、もうその色は大人用も子供用も売り切れてしまったんだよ。あるのは緑色の大人用だけ。そんなの被ると前が見えないだろ、あぶないからおやめなさい。似た色のなら別の帽子で子供サイズがある」
「やだ、おれはティグレのこの形がいいんだ。それにおれはもう12だから子供じゃないや」
「まぁ、じゃあお母さんはおばあちゃま。それでも、***はオレンジ色の帽子が欲しかったのでしょ、これだと緑色してるよ、それでもいいの」
「いいったらいいの!ヒィロが好きな帽子をつけてゆくんだ、今度の土曜日ルチャにこの帽子を被っていって、ヒィロに一番に見つけてもらって…」
「だって、ほら。ぶかぶか」
「ぶかぶかでもいいの!すぐに大きくなるもの、ヒィロみたいに」
「あら、このあいだはエルコがすきだっていってなかった」
「エルコもスキだよ、でも今度のゲームにはエルコは出ないし…ねぇ、買ってくれるよね、これ」
「……やれやれ、わかったわ、おまえの12歳の誕生日だもの、***。すみません、これください」
「ぼうや、お母様に感謝しなさいね。……毎度あり!」
「わぁ、ありがとう!お母さん大好き!」
「あら、お父さんは?」
「うん、ルチャにつれてってくれるのもお父さんだもん、大好き、ありがとう!」
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「なぁに、まだ寝ているの?ホマレ」
妻の声が降るよりも早く、顔に置いておいたグリーンのハンチングをとられ、差し込む日差しで目が覚めた。
「お寝坊さんなんだから」
「…ごめん。懐かしい夢を見てた。いや、思い出してた……」
ぼんやりとした目つきで、微笑む妻を見上げる。
それでもどこかぼうっとしていると、少しこけた頬骨に軽い口付けを落とされた。
(あぁ、あのとき違う帽子を買っていたら、きっとこんな幸せな目覚めには……)
うん、と言って上半身を起こす。少し伸びをして、お返しの口付けをその細い首筋にしてやる。
くすぐったそうに笑う妻を見て口元を少し緩めながら、帽子をきちんとかぶり直した。
両手に当たる帽子の生地のしなりに、よく壊れないものだと思う。実際何度も壊れたり汚れたりしたのだが、そのたびにきちんと直して、いつも傍に置いていた。
(…あぁ、あのとき、違う帽子を買っていたら……)
さぁ、今日はどこまでつれてってくれるの?と手を引っ張られる感覚に、続きの思考は途切れた。
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