昼間、当たり前のように遊びに出かけていく妻を、最初は別になんとも思わなかった。
ちゃんと帰ってくることはわかってたから。
けれども、それが連続して――途切れることなく、続いて。
自分たちのことを話すことより、土産話のほうが多くなることが続いて。
俺が知らない人物のことを嬉しそうに話す子供のような無垢な笑顔は、ときたま俺をさっくりと刺したりした。
俺は、思い出す。
彼女を何十年も待ちつづけた時を。
俺が子ども扱いされるのが嫌いなのに、マツリがそれをいつまで経ってもやめない現実も、そのイライラに拍車をかけた。
ああ、でも言えなくて。
何を今更?
やきもちを通り越した、疑い。不安。
ああ、また俺は一人になるんじゃないか?
君を見送ったら、また俺は君を何十年も待たなきゃならないのかな?
ただ、俺は君に一番に愛を告げた人間だというだけだったんじゃないかって。
お人よしの君はただ、俺の問いにはいと答えただけなんじゃないかって。
ヒト、というものにあこがれて、ヒトを嫌いになるということを知らない君は、ただ「そういうもの」を経験してみたいだけだったんじゃないかって。
とにかく、愛されているという実感が、薄れていった。
俺はこんなに、こんなにこんなに、こーんなに愛しているのに、君は?ってな具合に。
君が俺を愛しているということを、疑ったんだ。
だからきっと、俺の魔法が解けちゃったんだね。
けれども、やっぱり君は最後に帰ってきたし
俺がいなくなっても探してきてくれたね。
あまり、慌ててなかったのが、やっぱりちょっとせつなかったけど。
さんざんな夢のあとの、俺の体が戻った感覚や、その分増えたって感じの君の皺を見て、君が俺を治した(あるいは、直した)っていうのをなんとなく理解したけれど、それは君にとってあたりまえの感覚で(たとえは気に入らないけれど、ちょっと鼻水がでちゃった子供の鼻をかんでやるような母親の感覚で)、特に珍しいことではないんだね。
それを気負う気配もないし、ただ、普通っていう感じで。
俺が逃げ出しても、じきに帰ってくるわ、って。
何処か悪くなっても、治るに決まってるわ、って。
君のその自信はどこからくるのだろう?
だから、俺は、勝手な解釈をすることにした。
君のその自信は、俺のこのあふれんばかりの愛情が源に違いない、と。
(本人に確認はしない。だって多分違うから)
だから、彼女が自信家でいるうちは、俺を愛してくれている証拠なんだということにしていていいよね。
だから、もうむやみに妬いたりしないよ。
片方だけ妬いてるのもみっともないし。
そんな年じゃないし。
ああ、でもさ。
俺もやっぱり自信家になりたいから、もっとたくさん愛して欲しい。
今のままでいい、っていうのはやっぱりなくて。
俺は欲張りなんだ。
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